東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1510号 判決 1969年12月25日
原告 東都不動産株式会社
右代表者代表取締役 酉山昇市郎
右訴訟代理人弁護士 谷正男
被告 大和団地株式会社
右代表者代表取締役 石橋信夫
右訴訟代理人弁護士 原則雄
参加人 和泉管財株式会社
右代表者代表取締役 和泉五郎
主文
一、被告は原告に対し金一六四万五四四三円およびこれに対する昭和四三年二月二二日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。
二、埼玉県所沢市大字所沢字一四軒所在の土地売買仲介契約に基づく原告の被告に対する仲介報酬債権金一〇九六万九六一九円のうち第一項記載の限度を超える分はこれが存在しないことを確認する。
三、被告は参加人に対し金七五万九一一四円およびこれに対する昭和四三年八月二二日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。
四、原告および参加人その余の請求を棄却する。
五、訴訟費用中原告と被告間に生じた分はこれを五分し、その三を原告その余を被告の負担とし参加によって生じた費用はこれを五分し、その四を参加人その余を原告および被告の負担とする。
六、この判決は第一、三項に限り仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告は本訴請求につき「被告は原告に対し金一〇九六万九六一九円およびこれに対する昭和四三年二月二二日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、参加人の請求につき「参加人の請求を棄却する。参加費用は参加人の負担とする。」との判決を求めた。
二、被告は本訴請求につき「原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、参加請求につき「参加人の請求を棄却する。」との判決を求めた。
三、参加人は参加請求につき「埼玉県所沢市大字所沢十四軒所在の土地売買仲介契約に基づく原告の被告に対する報酬債権金一〇九六万九六一九円は存在しないことを確認する。被告は参加人に対し金四〇五万円およびこれに対する昭和四三年八月二二日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。参加費用は原告および被告の負担とする。」との判決ならびに第二項につき仮執行の宣言を求めた。
第二、当事者の事実上の主張
一、原告は本訴請求の原因および参加請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。
(一) 原告は不動産の売買の仲介を業とする株式会社であり被告は団地を造成してこれを売却することを業とする株式会社である。
(二) 原告は昭和四二年六月頃被告に対し所沢市大字所沢十四軒所在の土地六万二〇〇〇坪(以下本件土地という。)を被告が原告の仲介により買付るよう仲介斡旋の申込みをなしたところ、被告の東京営業所長上松憲一は、その頃原告の常務取締役浜田卓の案内によって現地を検分の上同年七月初原告の仲介によって本件土地を買受ける旨の意思表示をなし、原告と本件土地の売買に関し仲介契約を締結した。
(三) しかるところ、被告は原告の仲介により本訴提起時までに本件土地中三万八七〇七坪を買付け、その売買価額は金五億四八四八万九五二円である(右売買を以下は本件取引とも称する。)から、原告は右売買契約の成立によって仲介報酬請求権を取得した。
(四) 仮に右売買契約は参加人の仲介で成立したものであって、原告が右売買契約の締結自体に関与しなかったとしても、右は売主側の仲介業者たる参加人と被告と相通じて原告を排除し、売買契約を成立させたものであるから、被告は原告の仲介報酬請求権取得の条件である原告の仲介行為による売買契約の成立を妨げたものである。よって、民法第一三〇条により、原告の仲介による取引完了したものとみなされ、原告は報酬請求権を取得したものというべきである。
(五) しかして、本件仲介契約により原告の取得すべき報酬額については、後に訴外大塚寿弘が原告を代理して、被告の東京営業所において被告の担保者石川二三男と合意して取引金額の二パーセントと定めた。尤も、本件取引成立までの間原告、訴外大塚寿弘、参加人のほか、訴外酒井得郎、同野村喜好も関与しているのであるが、原告が参加人から、昭和四二年五月依頼せられ、本件土地の話を小田急不動産に持ちこんだ際、参加人訴外酒井、同野村は売手側として売手から支払わるべき仲介料を取得し、原告は訴外大塚寿弘とともに買手側の仲介者として買手から取得すべき仲介料二パーセントを取得すべき旨の合意が原告、参加人、訴外酒井の間で成立しており、したがって、本件取引においても参加人、訴外酒井、同野村は右合意により買主たる被告から仲介料を取得する権利を有するものではなく、また、訴外大塚は宅地建物取引業者の免許を得ておらず業として仲介行為をなし得ない立場にあり、同人は原告の代理人として行動していたから被告に対し直接報酬を請求し得る権利を有するものではない。
(六) よって、原告は被告に対し、本件土地仲介契約に基づく報酬金一〇九六万九六一九円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四三年二月二二日から右完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(七) 参加請求原因(一)の事実および(二)の事実中、被告の買付坪数、買付価額の点は認めるが、参加人が被告に対する本件土地の仲介人であるとの主張はこれを争う、その余の事実は不知。
二、被告は原告の本件請求原因、参加人の参加請求原因につき答弁として次のとおり述べた。
(一) 本訴請求原因(一)の事実中被告の業務内容は認めるが、原告の業務内容に関しては不知。
(二) 同(二)の事実は否認する。被告は昭和四二年五月頃、訴外大塚寿弘の紹介により本件土地の贈入を促進することとし、被告の東京営業所長上松憲一同用地課長石川二三男が同年六月六日右大塚の案内により現地を視察し、同年七月一〇日頃参加人を仲介人として地主側仲介訴外野村喜好を相手方として仲介業務を遂行させたのである。
(三) 同(三)の事実中被告が原告主張の代金をもって原告主張の土地を買付けた事実は認める。なお、参加人との間の前記仲介契約は、本件土地を直ちに買受け登記可能であるとの前提の下に結んだものであったが、被告側において地主との直接接渉その他の具体的業務を行わざるを得なかったものであったのみならず、また買受工作も難航を極め昭和四二年末漸くそのうちの三万八七〇七坪を買受けるにとどまったものである。
(四) 同(四)の事実は否認する。
(五) 同(五)の事実は争う。
(六) 参加請求原因事実は認める。
三、参加人は参加請求の原因および原告主張に対する反論として次のとおり述べた。
(一) 原告は本訴をもって被告に対し昭和四二年七月頃原被告間に本件土地の売買仲介契約が成立したとし、これに基き売買坪数三万八七〇七坪の売買価額金五億四八四八万九五二円の二パーセントに相当する金一〇九六万九六一九円の仲介報酬を請求している。
(二) しかしながら、本件土地について被告と売買仲介契約をなしたのは原告ではなく参加人である。参加人は昭和四二年七月一〇日頃被告から仲介手数料坪当り金一〇〇〇円の割合とし仲介の依頼を受け、被告は参加人の仲介により本件土地のうち三万八七〇七坪を代金五億四八四八万九二五円をもって買付けた。そして、仲介報酬につき参加人と被告間において改めて協議の結果右売買価額の二パーセントの範囲内において金一〇七〇万円と定めた。しかるところ内金六六五万円は支払を受けたが残金四〇五万円の支払がない。
(三) よって、参加人は原告に対し原告がその主張する報酬債権の存在しないことの確認を、被告に対しては右報酬残金およびこれに対する参加申出書送達の日の翌日たる昭和四三年八月二二日以降右完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(四) 参加人は原告に対して本件土地の買主をみつけて貰うよう依頼したことはなく、土地の図面を交付したこともなく、原告から被告に売渡すよう仲介行為を依頼されたこともない。
昭和四二年五月頃原告および酒井得郎らと参加人間において本件土地の仲介手数料の分配につき協議したことはあったが結局不調に終ったのであり、しかも、右の協議は本件土地を小田急電鉄株式会社へ売込むについての協議であるに過ぎない。
昭和四二年六月六日頃参加人が本件土地現場において説明をしたのも、被告に売却斡旋の話をもちこんできた大塚寿弘の要請によるものである。
第三、証拠関係≪省略≫
理由
原告代表者尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告は不動産の売買の仲介を業とする株式会社であり、被告は団地を造成して売却することを業とする株式会社、参加人は不動産の売買仲介を業とする株式会社であることが明らかであるところ、原告は本件取引につき仲介報酬請求権を取得したと主張し、参加人は右主張を争い、却って、参加人が報酬請求権を取得したと主張するので、まず本件取引成立に至るまでの経過について検討する。
≪証拠省略≫を綜合すると、
本件土地はその所在地方のいわゆる有力者訴外野村喜好が一部の地主の要望により他の地主とも交渉してとりまとめて売却することを予定していたもので、右野村はこれを参加人に売却を依頼していたものであるところ、参加人代表者和泉五郎はさらに知合いの訴外酒井得郎に公図写に買収予定地の範囲を記入した図面を渡して買主を探すよう依頼した。右酒井はかねて知合の訴外大塚寿弘から分譲に向く良い土地はないかと言われて本件土地を紹介し、同人に右図面を渡した。右大塚はさらに知合の原告常務取締役浜田卓に本件土地を紹介し、売手の元付は参加人で訴外酒井から持ちこまれたものであると言って買主をみつけるよう依頼した。右浜田は昭和四二年五月頃本件土地をかねて出入りしていた小田急不動産に買付するよう斡旋し、右酒井らとともに現地を案内した。そして、原告および酒井は参加人らと協議し、小田急不動産が買付ることになったときは、参加人および酒井は売手側から坪一〇〇〇円の割合で仲介報酬を支払って貰ってこれを取得し、原告と大塚は買手側から取引額の二パーセントを支払って貰ってこれを取得するとの手数料分配基準まで定めたのであるが、結局値段の打合いがつかず小田急不動産からは買付を断られた。そこで右浜田は、同月下旬本件土地を大塚がかねてから出入していた被告に買代けるよう申し入れるべく参加人に諒解を求めたところ参加人代表者和泉五郎は渋々ではあるが承諾した。そこで浜田は同年七月初頃大塚とともに被告に本件土地の話をもちこみ、被告の東京営業所長上松憲一同用地課長石川二三男に会い、本件土地の図面を渡し、土地は三万坪あり残り三万坪の買収も見込がある旨の説明をした。そして、その二、三日後被告より現地を見たい旨原告に申入れがあり、七月五日頃右浜田、大塚、酒井は上松石川と現地に同道し、一方参加人代表者和泉も右酒井を通じ原告らからの報せにより参集し、和泉において専ら現地の説明、案内に当った。被告は調査の上買付をするかどうか返事をするということであったが、その後、被告から本件土地を買いたいので買付の話を早くするため参加人と直接話をしたいとの申込が浜田に対しなされた。そこで、浜田は酒井の承諾を得てこれを承諾した。そこで被告はその頃参加人に地主との交渉を進めるよう依頼し以後は参加人の仲介により交渉が進められた。そして参加人の長期間にわたる地主のとりまとめ売買代金額の調整等の仲介行為によって本件土地のうち三万八七〇七坪を代金五億四八四八万九五二円で売買する旨の本件取引が成立した。
以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
右認定の事実によれば、遅くとも被告が本件土地の検分をし買付けたいと原告の社員浜田に申入れたときにおいて被告は原告と大塚に本件土地売買仲介斡旋を依頼したものであり、次いで参加人にも原告および大塚の同意を得て右の仲介の斡旋を依頼したものと認めるのが相当である。そして訴外酒井は参加人の補助的役割を果していたものであり、また訴外野村は本件土地の売主である地主の代表者とみるのが相当である。参加人は参加人のみが被告から仲介の依頼を受けたのであると主張するが、右主張の採用し得ないこと右認定の事実により明らかであり、また原告は訴外大塚は宅地建物取引業の免許を得ているものではないから原告の代理人であるというけれども、信頼を得て不動産取引の仲介をすることは免許の有無に関係はなく、前認定の事実によれば訴外大塚が原告の代理人たる役割を果しているに過ぎないものとみることはできず、原告の右主張も採用できない。
ところで、不動産の仲介斡旋に当った仲介人が数人あるときは特約等特段の事情がない限り仲介に尽力した度合に応じて按分した額につき報酬金請求権を有するものと解すべきところ、原告は本件取引に関しては仲介者間において、被告から支払わるべき仲介報酬金は原告および訴外大塚が取得するものとの合意が成立したと主張するが、仲介依頼者を交えずに単に仲介者のみによって依頼者をも拘束する合意はなし得ないものと解する。のみならず、本件取引に関して原告主張の合意が成立したとみるべき何らの証拠はない。尤も小田急不動産に斡旋したときは原告主張の合意が成立したとみるべきこと前認定のとおりであるが、右の合意がそのまま本件取引についても効力を有するものと速断できない。この点に関する証人浜田卓の証言、原告代表者尋問の結果は原告主張の事実を認める証拠とするに足りない。
そこで原告および参加人が取得した報酬金の額について判断するためには、被告が本件取引について支払うべき仲介報酬金の総額についてまず検討しなければならない。
しかるところ、≪証拠省略≫を綜合すると、原告が小田急不動産に本件土地の話をもちこんだ際に原告参加人らは前述のとおり買主から取得すべき仲介報酬額の合意をしており、被告に話をもち込んだときは特別の合意はしなかったけれども、大塚は被告が買付方針を定めた後被告の買付担当者石川二三男と仲介料について交渉し被告の支払うべき仲介報酬を取引額の二パーセントと約束した。また昭和四二年八月中参加人は参加人のみが被告に対し報酬請求権を有するとの前提ではあるが、全仲介者に被告を通じ配分されるべきものとして、買付の交渉に要した被告の日数、費用を考慮して取引額の二パーセント以内において金一〇七〇万円と協定し、次いで原告が昭和四二年九月中仲介料として二パーセントを被告に要求したとき被告も右比率に異議はなく、ただ仲介者間で配分額を話合ってほしいとのことであった。
以上の事実が認められ右各証拠中右認定に反する部分は採用しない。
してみれば、本件取引についての被告から受くべき報酬は、原告、参加人ら仲介者は取引額の二パーセントとすることは暗黙に合意し、大塚も仲介者ら全員のために(究局においては被告からの受領分は買手側の仲介者のみが取得するの前提であったにしても)被告と交渉し、被告もその趣旨で取引額の二パーセントとすることに合意したものというべきである。尤も右のように参加人と被告間において改めて取りきめがなされているけれども、参加人単独で被告ととりきめをしても他の仲介者に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから、右は参加人と被告間において参加人の取得すべき請求権を減額したものと解するのが相当である。
しからば、原告、参加人らが請求し得べき報酬額は取引額の二パーセントである金一〇九六万九六一九円について按分し、参加人についてはさらに前記減額分を差引いて算出すべきものとしなければならない。
しかるところ、原告および大塚の仲介行為は本件土地を被告に紹介し図面を交付して現地に案内し、売手側仲介者であった参加人を引き合わせたにとどまる(これらの行為は仲介契約成立前であっても、仲介成立後においては仲介行為と評価さるべきものと解する。)こと前認定のとおりであるところ、その後の本件土地の売買交渉は専ら参加人によって前記のとおり行われたのであるから、その本件取引成立に至る貢献の度合いは参加人は七、原告および大塚は三とし、原告および大塚間においては、元来被告に出入りしていたのは大塚であることを考慮すれば、大塚は正規の仲介業者ではないけれども各二分の一とするのが相当である。しからば、被告の原告に対して請求できる報酬金は金一六四万五四四三円(円以下四捨五入以下同じ)が相当であり、また、参加人の受けるべき報酬額は金七四〇万九一一四円が相当であるところ、被告よりすでに金六六五万円を受領したことを自認しているから金七五万九一一四円を被告に対し請求できるものといわなければならない。
なお、大塚の取得分については、被告と大塚間によって別個に解決されるべきものであることを附言する。
よって、原告が被告に対し報酬金一六四万五四四三円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四四年二月二二日から右支払済みまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において本訴請求を正当として認容すべきもその余の請求は理由がないから失当として棄却し、参加人の請求は、原告から被告に対する報酬債権は前記認容の限度を超える分は存在しないことの確認を求め、被告に対し金七五万九一一四円およびこれに対する参加申出書送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年八月二二日以降右完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由あるをもって正当として認容すべきもその余は理由がないから失当として棄却すべきである。
よって、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき、民事訴訟法第九二条、第一九六条により主文のとおり判決する。
(裁判官 綿引末男)